ヒューリスティック評価とは?メリットや評価項目、実践的な評価方法を解説

2025.09.16

目次

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ヒューリスティック評価とは、UI/UXの専門家が経験則に基づきWebサイトやアプリケーションのユーザビリティ上の問題点を発見し、改善策を提案する評価手法です。 本記事では、ヒューリスティック評価の基本的な概念、メリット・デメリット、具体的な実施方法、そして評価の精度を高めるためのポイントを解説します。UI/UXデザイナー、Webディレクター、プロダクトマネージャーなど、Webサービスやアプリケーションの開発・運用に携わる担当者の方々が、ヒューリスティック評価を効果的に活用し、ユーザー体験の向上につなげるための実践的な情報を提供します。

ヒューリスティック評価とは

ヒューリスティック評価とは、UXやユーザビリティの原則に基づいて、Webサイトやアプリのデザインや操作性を専門家の視点でレビューし、UI/UXの質の向上を図る評価・分析手法の一つです。これは、ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン氏が1990年代に提唱したもので、エキスパートレビューとも呼ばれます。ヒューリスティック評価の目的は、UI/UXにおける課題をユーザー視点で迅速に抽出し、ユーザビリティを向上させることです。ユーザビリティが改善されることで、ユーザーに望むようなアクションを促しやすくなり、コンバージョン率にも良い影響が期待できます。

ヒューリスティック評価と他の評価手法との比較

ヒューリスティック評価は、UI/UXの課題発見に有効な手法ですが、他の評価手法と比較することで、その特性をより深く理解できます。特に、ユーザビリティテストや認知的ウォークスルーといった調査手法との相違点を把握することは、適切な評価手法の選択において重要です。

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ユーザビリティテストとの相違点

ヒューリスティック評価とユーザビリティテストは、どちらもユーザビリティを評価する手法ですが、アプローチが異なります。 ユーザビリティテストとは、ターゲットとなるユーザーに類似した仮想ユーザーに、実際にWebサイトやアプリを使用してもらい、その言動やマウストラックから問題点などを探る評価手法です。以前はインタビュールームでテストを行うのが一般的でしたが、近年ではリモートでテストを行うケースも増えています。 ユーザビリティテストでは、実際のユーザー行動から問題点を探るため、ヒューリスティック評価に比べてより根深い問題の発見につながることがあります。しかし、課題の検討や仮想ユーザー選定などが難しく、時間やコストがかかるというデメリットもあります。 一方、ヒューリスティック評価は専門家の経験則に基づいてサイトを診断するため、データ取得や検証環境の準備が不要で、課題の抽出から改善提案までを迅速に行える点が大きな違いです。

認知的ウォークスルーとの相違点

認知的ウォークスルーとヒューリスティック評価は、どちらもUXやユーザビリティの専門家による「専門家評価」ですが、手法と目的が異なります。 認知的ウォークスルーは、人間の認知モデルに基づき、ユーザーの利用の流れを想定したシナリオやタスクに沿ってインターフェースを評価するのに対し、ヒューリスティック評価は、UXやユーザビリティの原則・ガイドラインに沿って評価します。 認知的ウォークスルーは、設計や開発の初期段階で行われることが多く、設計の意図とユーザー体験の間に乖離がないか、初めて使うユーザーにも分かりやすいかなどを確認することが主な目的です。それに対し、ヒューリスティック評価は成果物に対して行うことが多く、既存のインターフェースのユーザビリティやユーザー体験の問題点を洗い出すことが主な目的となっています。認知的ウォークスルーは、ユーザーの参加を必要としないため、実施に比較的費用がかからず、新規ユーザーの視点に立ってシステムの学習しやすさを評価するのに用いられます。ヒューリスティック評価は細かなチェックリストを網羅的に見るプロセスがある一方、認知的ウォークスルーは細かなチェックリストを網羅的に見るプロセスがない分、スピード感をもって取り組めます。

そのほかにも様々な評価手法があります。 こちらの記事もあわせてご覧ください。

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ヒューリスティック評価を導入する4つのメリット

ヒューリスティック評価を導入することで、UI/UX改善において多くのメリットを享受できます。特に、コストや時間、開発段階の柔軟性、そして定性的な課題発見の側面で大きな利点があります。 これらのメリットを理解することで、ヒューリスティック評価を効果的に活用できるでしょう。

  • 低コストかつ短期間でユーザビリティを検証できる

  • 開発の初期段階から問題点を洗い出せる

  • 定量データでは見えない課題を発見できる

  • サービス全体の基本的な問題点を網羅的に確認できる

低コストかつ短期間でユーザビリティを検証できる

ヒューリスティック評価は、費用対効果が非常に高い評価方法であり、少ないリソースと時間で実施可能です。大規模なユーザーテストに比べて費用効果が高く、専門家による迅速なフィードバックにより、UI/UXの問題点を早期に特定し、改善策を素早く導入できる点がメリットです。 効率的なプロセスとコスト削減の両方を実現し、製品開発の質を高めるのに貢献が期待できます。また、データ収集やツールをサイトに仕込むといった準備が不要なため、分析者のスケジュール次第でいつでも実施が可能です。

開発の初期段階から問題点を洗い出せる

ヒューリスティック評価は、開発プロセスの初期段階から適用できる点も大きなメリットです。プロトタイプやデザインが存在していれば、開発過程のどのタイミングからでも実施できるため、後の大規模な修正が必要となることを避けるのに役立ちます。これにより、問題が手戻りになることを防ぎ、効率的に成果につながるWeb改善が可能になります。 また、専門家による評価レポートは、社内関係者との合意形成や判断材料としても活用でき、プロジェクト全体の意思決定をスムーズに進めることができます。

定量データでは見えない課題を発見できる

アクセス解析のようなデータに基づいた定量調査とは異なり、ヒューリスティック評価は、実際のユーザーが操作した際の使いやすさ、見やすさ、ストレス要因などを調査する定性調査にあたります。これにより、数値データだけでは分からない「ユーザーの行動理由」や「ユーザーの気持ち」を深く理解し、潜在的な課題やユーザー体験を妨げている要因を特定できます。 例えば、ユーザーがWebサイトで特定のアクションを達成できない場合、アクセス解析では離脱率の高さは分かりますが、なぜ離脱したのかというユーザーの心理やストレス要因までは分かりません。ヒューリスティック評価では、専門家がユーザーの視点でサイトを操作し、その要因を定性的に深く掘り下げて分析することが可能です。

サービス全体の基本的な問題点を網羅的に確認できる

ヒューリスティック評価は、事前に定義された一連のユーザビリティ原則やガイドラインに基づいて、WebサイトやアプリケーションのUIデザインと機能性を評価する手法です。これにより、ナビゲーションや情報アーキテクチャ、コンテンツ、フィードバック、アクセシビリティなど、サービス全体の基本的な問題点を網羅的に確認できます。特に、ヤコブ・ニールセンの提唱する「ユーザビリティに関する10の原則」は、ヒューリスティック評価のチェックリストやガイドラインを作成する際に評価軸として広く活用されており、この原則に沿って評価を進めることで、広範なユーザビリティの課題を発見することが可能です。こちらは後ほど詳しくご紹介いたします。 これにより、Webサイトやアプリ全体を通して一貫したユーザー体験を提供できているか、基本的な設計原則が守られているかなどを効率的に検証できます。

知っておきたいヒューリスティック評価のデメリット

ヒューリスティック評価は多くのメリットを持つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。 特に、評価の主観性や実際のユーザーとの乖離は、評価結果の解釈や活用において注意すべき点です。

  • 評価者のスキルや経験に結果が左右される

  • 実際のユーザーが感じる問題と乖離する可能性がある

評価者のスキルや経験に結果が左右される

ヒューリスティック評価は、専門家の経験や知識に大きく依存するため、評価者によって結果にばらつきが生じる可能性があります。評価者の専門知識が乏しい場合、問題の発見率が低くなることがあります。例えば、同じ問題に取り組んだとしても、異なる評価者がそれぞれ異なるルールや視点を持っているため、結果や提案が異なることがあります。評価基準となるチェックリストを作成していても、評価者のレベルは結果にダイレクトに影響を与え、仮に評価者が誤った評価を下すと、現状を悪化させてしまう可能性も否定できません。 したがって、効果的な評価を行うためには、経験豊富なUI/UXのプロに依頼することが重要です。

実際のユーザーが感じる問題と乖離する可能性がある

ヒューリスティック評価は、専門家が理論やガイドラインに基づいて評価を行うため、実際のユーザー行動を観察しないことから、リアルな使用状況やユーザー特有の課題を見逃す可能性があります。評価はあくまで専門家の主観に基づいて行われるため、ユーザーの多様なニーズや視点を見落とすリスクがあり、実際のユーザーが感じる問題と乖離することがあります。例えば、特定の専門家の視点に偏ることで、全体的な製品のユーザビリティを完全に把握することに限界がある場合があります。 このデメリットを補うためには、ユーザビリティテストやアクセス解析データなどの定量的データと組み合わせて仮説を検証し、信頼性を高めることが重要です。

評価の基準となる「ユーザビリティに関する10の原則」

ヒューリスティック評価を行う上で、評価の基準となる「ユーザビリティに関する10の原則」は非常に重要です。これは、ヤコブ・ニールセンが提唱した「10のヒューリスティック」とも呼ばれ、UIデザインの経験則に基づいたユーザビリティの基本原則をまとめたものです。 この10原則は、ヒューリスティック評価のチェックリストやガイドラインを作成する際の主要な指標や項目として広く活用されています。 各原則を理解し、適切に適用することで、より精度の高い評価が可能になります。

原則1:システムの状態をユーザーに常に伝える

この原則は「システム状態の可視性」とも呼ばれ、システムが現在どのような状態にあるのかを、ユーザーに分かりやすく示すことを意味します。ユーザーが何らかの操作を行った際に、その操作がどのように進行しているのか、システムが適切に反応しているのかを画面上に明確に表示することで、ユーザーは安心感を抱き、次に取るべき行動を判断しやすくなります。

例えば、Webサイトの読み込み中にはローディングアイコンを表示したり、フォーム送信後には「送信完了」のメッセージを表示したりすることがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 1:システムの状態をユーザーに常に伝える

透過的なコミュニケーションは、ユーザーの信頼感を高め、操作中の混乱を防ぐ上で不可欠です。

原則2:現実世界で使われる言葉や概念をシステムに反映させる

システムと現実世界の一致というこの原則は、ユーザーに馴染みのある単語、フレーズ、概念、そして現実世界での操作をシステムに反映させることの重要性を示します。専門用語を避け、ユーザーが日常生活で慣れ親しんでいる言葉やアイコンを用いることで、システムを直感的に理解し、操作できるようになります。

例えば、ごみ箱のアイコンでファイルを削除する機能を表したり、「保存」ボタンにフロッピーディスクのアイコンを使用したりすることがこれに当たります。

ユーザビリティに関する10の原則 2:現実世界で使われる言葉や概念をシステムに反映させる

ユーザーの心理モデルに合致したデザインは、学習コストを低減し、スムーズな操作体験を提供するために不可欠です。

原則3:ユーザーが操作を自由にコントロールできるようにする

ユーザーに制御の自由を提供するというこの原則は、ユーザーが誤操作した際に、アクションを中止したり、元に戻したりしやすい形にすることの重要性を強調します。操作に慣れたユーザーでも誤操作は発生する可能性があるため、ユーザー自身が間違った操作を取り消せるようにすることで、安心してシステムを操作できるようになります。

例えば、Webサイトで間違ってページを閉じてしまった場合に「元に戻す」機能を提供したり、ファイル削除時に「アンドゥ」機能を提供したりすることがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 3:ユーザーが操作を自由にコントロールできるようにする

これにより、ユーザーは誤りを恐れずに積極的にシステムを探索し、学習できる環境が整います。

原則4:プラットフォーム全体で一貫性と標準性を保つ

この原則は、「一貫性と標準性の保持」とも呼ばれ、プラットフォーム全体でデザインや操作に一貫性を持たせ、業界標準や慣習に準拠することの重要性を示します。異なるページや機能間で同じ操作やデザイン要素は同じ意味を持つべきであり、ユーザーが一度覚えた操作方法が他の場所でも通用することで、学習コストを低減し、迷うことなくシステムを利用できます。

例えば、Webサイト全体でボタンの色やフォントサイズ、ナビゲーションメニューの配置などを統一したり、一般的なWebサイトで使われているアイコンやラベルを採用したりすることがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 4:プラットフォーム全体で一貫性と標準性を保つ

一貫性のあるデザインは、ユーザーの予測可能性を高め、ストレスの少ない操作体験を提供します。

原則5:エラーが起きにくい設計で未然に防ぐ

「エラー防止」の原則は、ユーザーがそもそもエラーを起こしにくいようにシステムを設計することの重要性を提唱します。ユーザーが不適切な操作をしてしまう可能性のある箇所を特定し、それを未然に防ぐための工夫を凝らすことで、エラーによるフラストレーションを軽減できます。

例えば、フォームの入力項目にバリデーションを設けて誤った形式の入力を防いだり、重要な操作を行う前に確認ダイアログを表示したりすることがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 5:エラーが起きにくい設計で未然に防ぐ

破壊的な操作には確認ステップを設けることも、エラー防止の有効な手段です。 エラーを事前に防ぐ設計は、ユーザーの操作ミスを減らし、よりスムーズな体験を提供するために不可欠です。

原則6:ユーザーの記憶に頼らず直感的に操作できるようにする

この原則は「記憶に頼らない設計」とも呼ばれ、ユーザーがシステムを操作する際に、以前の情報を記憶したり、複雑な手順を覚えたりする必要がないように、必要な情報を画面上に明示することの重要性を示します。ユーザーが直感的に操作できるデザインは、学習コストを低減し、効率的な利用を促進します。

例えば、ECサイトで以前入力した配送先や請求先の情報を自動入力や選択肢として提示したり、アイコンにラベルを設けたり、必要に応じてヘルプを表示したりすることがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 6:ユーザーの記憶に頼らず直感的に操作できるようにする

ユーザーの認知的な負荷を軽減することで、より快適なユーザー体験を提供できます。

原則7:熟練者も初心者も効率的に操作できる柔軟性を持たせる

柔軟性と効率性というこの原則は、ユーザーの経験や知識のレベルに合わせて、提供するコンテンツをカスタマイズしたり、インターフェースを変更して操作性を高めることの重要性を説きます。初心者にはUIを分かりやすくし、リピーターには効率的に操作が行える機能やショートカットを提供することで、幅広いユーザー層に対応できます。

例えば、高度な機能を必要としないユーザーにはシンプルなインターフェースを提供し、熟練ユーザーにはキーボードショートカットやカスタマイズ可能なツールバーを提供するなどが挙げられます。

ユーザビリティに関する10の原則 7:熟練者も初心者も効率的に操作できる柔軟性を持たせる

一つの製品の中で、同じ機能に対して複数の操作方法を用意し、柔軟で幅広い操作性を持たせることで、ユーザーは自分に合った操作方法を選択できるようになります。

原則8:不要な情報を取り除きシンプルで美しいデザインにする

この原則は「美的でミニマルなデザイン」とも呼ばれ、ユーザーが本当に必要とする情報に焦点を当て、不要な情報を排除することで、シンプルで美しいデザインを実現することの重要性を示します。画面上の情報量が多すぎると、ユーザーは目的の情報を見つけにくくなり、認知的な負荷が増大します。

ユーザビリティに関する10の原則 8:不要な情報を取り除きシンプルで美しいデザインにする

例えば、Webサイトのレイアウトをすっきりとさせ、余白を適切に活用することで、視覚的なノイズを減らし、コンテンツの読みやすさを向上させることがこれに該当します。 不要な要素を削ぎ落とし、ミニマルなデザインを追求することは、ユーザーの注意を重要な情報に誘導し、より良いユーザー体験を提供するために不可欠です。

原則9:ユーザー自身がエラーを認識し解決できるように導く

この原則は「ユーザーによるエラー認識、診断、回復のサポート」とも呼ばれ、エラーが発生した場合に、ユーザーがそのエラーを理解し、どのように解決すればよいかを明確に伝えることの重要性を示します。単にエラーメッセージを表示するだけでなく、何が問題で、どうすれば解決できるのかを具体的に示すことで、ユーザーは自力で問題を解決できるようになります。

例えば、入力フォームでエラーが発生した場合、どの項目にどのような間違いがあるのかを具体的に指摘し、修正方法を提示することがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 9:ユーザー自身がエラーを認識し解決できるように導く

専門用語を避け、分かりやすい言葉でエラーメッセージを提示し、必要であれば解決策へのリンクやヘルプへの導線を設けることで、ユーザーのフラストレーションを軽減し、問題解決を支援できます。

原則10:操作に迷った際のヘルプやマニュアルを提供する

「ヘルプとマニュアルの用意」という原則は、ユーザーが必要なときにすぐに探し出せるよう、FAQや使い方ガイドなどのサポートコンテンツを分かりやすい場所に用意しておくことの重要性を提唱します。ユーザーがシステムの使用中に疑問や問題に直面した際に、適切なヘルプやマニュアルが提供されていれば、ユーザーは自力で解決策を見つけ出し、スムーズに操作を続行できます。ユーザーの状況に応じたドキュメントを提示し、必要な操作手順を具体的に示すことで、ユーザーの抱える問題の解決を適切な場面でサポートできるようにします。

例えば、検索可能なFAQページを用意したり、文脈に応じたヘルプメッセージを表示したりすることがこれに該当します。

ユーザビリティに関する10の原則 10:操作に迷った際のヘルプやマニュアルを提供する

優れたヘルプ機能は、ユーザーの自己解決能力を高め、サポートコストの削減にもつながります。

ヒューリスティック評価を実践するための4つのステップ

ヒューリスティック評価を効果的に実践するためには、計画的かつ体系的なアプローチが必要です。 以下の4つのステップに従うことで、評価の目的を明確にし、質の高い結果を得ることが可能になります。

ステップ1:評価の目的と対象範囲を明確にする
ステップ2:評価基準となるチェックリストを作成する
ステップ3:複数の評価者によって多角的に評価を実施する
ステップ4:評価結果を集約し改善の優先順位を決める

ステップ1:評価の目的と対象範囲を明確にする

ヒューリスティック評価を始めるにあたり、まず「何を目的として評価を実施するのか」を明確にすることが不可欠です。例えば、特定のタスクを達成する際のユーザーの障壁を見つけることや、Webサイト全体のユーザビリティスコアを改善することなどが目的となり得ます。目的を明確にすることで、評価する際に重点的にチェックすべき箇所が明確になります。 また、評価対象となるWebサイトやアプリの目的を整理し、ターゲットユーザーの属性、行動パターン、価値観、利用シナリオなどを整理したペルソナを共有することで、評価者間でターゲットの認識を合わせることも重要です。 さらに、評価対象の範囲、例えば、コンバージョンに繋がる特定のページや、課題があると推測されるページを選定することも必要です。これにより、やみくもに評価を行うのではなく、目的を定めてから効率的に評価を進めることができます。

ステップ2:評価基準となるチェックリストを作成する

ヒューリスティック評価を正しく行うためには、評価基準となるチェックリストの作成が非常に重要です。 このチェックリストを作成する際に大いに役立つのが、ヤコブ・ニールセンの「ユーザビリティに関する10の原則」です。10個の原則をもとにした形でチェックリストの項目を作成し、各項目を客観的に評価できるように具体的に記述します。例えば、「入力エラーはリアルタイムで表示されるか」といった具体的な項目を設定します。 さらに、自社のビジネスモデルに合わせた独自のチェック項目を追加することで、より詳細で実用的な評価基準を設定できます。 評価の精度を高めるためには、このチェックリストが網羅的かつ具体的な内容であることが不可欠です。

ヤコブ・ニールセン「ユーザビリティに関する10の原則」

原則

項目

チェック項目

評価欄

1

システムの状態をユーザーに常に伝える

現在の操作状況がわかるフィードバックがあるか

処理中やエラー時に進捗表示があるか

2

現実世界で使われる言葉や概念をシステムに反映させる

専門用語ではなくユーザーの言葉で表示しているか

現実の慣習に沿った比喩や表現になっているか

3

ユーザーが操作を自由にコントロールできるようにする

「戻る」や「やり直し」が簡単にできるか

意図しない操作から簡単に回復できるか

4

プラットフォーム全体で一貫性と標準性を保つ

同じ用語・デザインを一貫して使っているか

プラットフォームの標準に従っているか

5

エラーが起きにくい設計で未然に防ぐ

誤操作を未然に防ぐ仕組みがあるか

危険な操作には確認ダイアログがあるか

6

ユーザーの記憶に頼らず直感的に操作できるようにする

必要な情報を思い出さずに見える形で提示しているか

メニューや選択肢がわかりやすく表示されているか

7

熟練者も初心者も効率的に操作できる柔軟性を持たせる

ショートカットや高度な機能で熟練ユーザーも効率よく操作できるか

頻繁な操作を簡略化できるか

8

不要な情報を取り除きシンプルで美しいデザインにする

不要な情報が多すぎず、シンプルに整理されているか

ビジュアルが情報の理解を妨げていないか

9

ユーザー自身がエラーを認識し解決できるように導く

エラーメッセージが明確で解決方法を示しているか

技術用語でなくユーザーにわかりやすい言葉になっているか

10

操作に迷った際のヘルプやマニュアルを提供する

必要なときにアクセスできるヘルプがあるか

簡潔でタスク解決に役立つ内容になっているか

ステップ3:複数の評価者によって多角的に評価を実施する

ヒューリスティック評価は、複数の評価者によって実施することが推奨されます。ヤコブ・ニールセンの研究によると、評価者1人では「ほとんどの場合かなり下手」とされており、複数の評価者の結果を集約すべきだと提唱されています。これにより、個々の評価者の主観的な判断による影響を軽減し、より客観的で信頼性の高い結果を得ることが可能です。評価者は、事前に設定した評価基準のチェックリストに沿って、Webサイトやアプリを実際に操作・閲覧しながら問題点を記録します。この際、各評価者が独立して調査を行い、発見されたユーザビリティの問題を詳細に記述することが重要です。 例えば、「ナビゲーションメニューがわかりにくい」ではなく、「ナビゲーションメニュー内のラベルが専門用語で統一されておらず、ユーザーが混乱する可能性がある」といった具体的な説明が必要です。これにより、多角的な視点から幅広い問題を発見し、評価の質と精度が向上します。

ステップ4:評価結果を集約し改善の優先順位を決める

評価者による個別の調査が完了したら、次にそれぞれの評価結果を集約し、発見された問題点を整理します。評価中に発見した問題は、具体的に記述された上で、インパクトや修正の容易さに基づいて優先順位を付けます。例えば、ユーザビリティの問題は、ユーザーのパフォーマンスや受け入れへの影響の見積もりに従って、多くの場合数値スケールで分類されます。このステップにより、リソースを効率的に活用し、最も影響の大きい問題から改善に着手できるようになります。 集約された結果をもとに、それぞれの問題点に対する具体的な改善策を検討し、改善後には改めて評価を行い、設定した目的や評価基準をクリアできているかなどの振り返りも忘れずに行うことが大切です。

評価の精度をさらに高めるためのポイント

ヒューリスティック評価の精度をさらに高めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。評価者の質を高めることはもちろんですが、他の調査手法との併用や、現代の技術を活用することも有効な手段です。例えば、AI技術の進化により、過去のユーザーデータや行動パターンを解析し、より客観的かつ精度の高い分析が可能になっています。AIを活用することで、ヒューリスティック評価の弱点を補い、効率的な改善策を導き出すことができます。また、複数の評価者を起用して意見を統合すれば、個々の主観的な判断の影響を軽減し、評価プロセス全体の質を向上させることが可能です。さらに、アクセス解析やヒートマップ、ユーザーアンケートなどの複数の分析結果とヒューリスティック評価の結果を比較するなど、分析手法を組み合わせることで、評価の精度も高まります。 評価者に対してガイドラインや評価手法について十分な教育を行うことも、評価の質を高める上で重要です。

まとめ

ヒューリスティック評価とは、UI/UXの専門家が経験則に基づきWebサイトやアプリケーションのユーザビリティ上の問題点を発見し、改善策を提案する効果的な評価手法です。この手法のメリットは、低コストかつ短期間でユーザビリティを検証でき、開発の初期段階から問題点を洗い出せること、さらには定量データでは見えない課題を発見し、サービス全体の基本的な問題点を網羅的に確認できる点にあります。しかし、評価者のスキルや経験に結果が左右されることや、実際のユーザーが感じる問題と乖離する可能性があるというデメリットも存在します。これらのデメリットを補い、ヒューリスティック評価の精度を高めるためには、複数の評価者による多角的な評価や、ユーザビリティテスト、アクセス解析などの他の調査手法との併用が効果的です。ヤコブ・ニールセンの「ユーザビリティに関する10の原則」を基準として活用し、目的と対象範囲を明確にした上で計画的に実施することで、ユーザー体験の向上に大きく貢献できるでしょう。

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